ロナルド・バーネット教授講演録|第2回/全5回|エコロジカル・ユニバーシティ、三つの領域、混然とした激動

ロナルド・バーネット教授講演録の第2回。エコロジカル・ユニバーシティ、三つの領域、入れ子構造、部門の増殖、複数の関係主体、混然とした激動を、スライド7〜12とともに収録します。

スライド7――エコロジカル・ユニバーシティ

スライド7 エコロジカル・ユニバーシティ、日本語版
Slide 7, the ecological university, English original
[スライド7――エコロジカル・ユニバーシティ]

相互に絡み合うエコシステムを示したこの図は、大学が巨大なエコシステムの力に揺さぶられ、課題を突き付けられている状況を表そうとしたものです。

世界中のあらゆる大学は、それを自覚しているかどうかにかかわらず、少なくともある程度、この状況の中にあります。

その結果、大学は、激動し、対立をはらんだ環境の中に置かれています。

皆さんはマネジメントに関心をお持ちです。

では、なぜ大学のような大規模組織において、マネジメントがこれほど難しくなっているのでしょうか。

それは、大学が現在、激動し、対立をはらんだ環境の中で活動しなければならないからです。

このことはしばしば指摘されています。しかし、その環境が実際にどれほど激動し、複雑なものであるかは、十分に認識されていないのかもしれません。

エコシステムは大学を揺さぶり、大学に課題を突き付けています。しかし、すべてのエコシステムが同じ力を持っているわけではありません。ほかのものよりも強い力を持つエコシステムがあります。支配的なエコシステムもあります。

私たちは今、私が「新たなトリプル・ヘリックス」と呼ぶものの出現を目の当たりにしています。

皆さんの多くは、20年あるいは30年ほど前に研究文献に登場した、従来のトリプル・ヘリックスという考え方をご存じでしょう。

しかし私は、現在、次の三つから構成される新たなトリプル・ヘリックスが生まれていると考えています。

  • 経済
  • テクノロジー
  • 政治体制、とりわけ国家

この三つは、大学に対して極めて強力な形で一体となって作用しています。

九つのメガ・エコシステムの中でも、この三つは特に支配的です。この三者連合は、協調して力を及ぼしています。

その結果として、世界の多くの地域で人文学が終焉へと向かっています。

日本の状況が正確にどのようなものであるかについて、私は十分には把握していません。しかし、私の理解では、日本の大学も、世界の多くの地域の大学と同じ方向へ進んでおり、人文学は高等教育の空間から徐々に後退しつつあります。

これは、経済システム、新たなテクノロジー、そして政治が、ますます一体化していることの結果です。この三つのメガ・エコシステムが収斂するにつれて、人文学のための空間は次第に狭くなっていきます。これらの力が共有している関心は、経済成長、資本の防衛と増大、システムの統制にあります。そして今日では、人間そのものまでがシステムとして理解されています。さらに、道具的理性が重視され、生命そのものがデジタルな体制の中へ囲い込まれていきます。

したがって、私たちの前にある問いは、21世紀において、大学という新たな可能性のための空間が、なお残されているのかということです。

私は、これらの巨大な力が大学に作用することによって、大学に残された空間が着実に狭められていると考えています。問題は、その空間を再び広げることができるかどうかです。

それによって大学が、21世紀における新たな可能性を受け入れられるようになるかどうかが問われています。

スライド8――三つの領域

スライド8 三つの領域、日本語版
Slide 8, the three territories, English original
[スライド8――三つの領域]

この後の講演をお聞きいただく間、大学を取り囲み、大学と複雑に絡み合っているメガ・エコシステムのイメージを、心に留めておいていただきたいと思います。そのイメージは、これから私がお話しするすべてのことの基礎となります。

ここで、出発点に戻りましょう。シビック、グローバル、エコロジカルという三つの領域です。

問題は、大学がこの三つすべての領域に生きるとは、どのような意味なのかということです。

大学がテクノロジー、経済、そして国家の利益の方向へと制約され、導かれている状況の中で、大学は、その前に開かれている三つの可能性、すなわちシビック、グローバル、エコロジカルという三つの領域のそれぞれに、適切かつ真剣に関わることができるのでしょうか。

スライド9――入れ子構造の罠

スライド9 入れ子構造の罠、日本語版
Slide 9, snares of nests, English original
[スライド9――入れ子構造の罠]

では、シビック、グローバル、エコロジカルという三つの領域を、どのように理解すればよいのでしょうか。

それらを、どのように表現できるでしょうか。もし図に描くとすれば、どのような形になるでしょうか。

三つの領域は、一つがもう一つの中に収まる、入れ子構造になっていると考える人もいるかもしれません。つまり、シビックな領域が国家的・グローバルな領域の中にあり、国家的・グローバルな領域がエコロジカルな領域の中にある、という構造です。

それは、ロシアの入れ子人形のようなものです。大きな人形から始まり、その中に小さな人形があり、さらにその中に、もっと小さな人形があります。

一見すると、すべては単純です。大学は、三つすべての領域に同時に関わることができます。

問題はありません。単に規模と地平の違いにすぎない、というわけです。

しかし私は、実際にはそれほど単純ではないと考えています。

スライド10――部門の増殖

スライド10 部門の増殖、日本語版
Slide 10, the proliferation of the units, English original
[スライド10――部門の増殖]

実際には、何が起こっているのでしょうか。

世界各地の大学では、多種多様な課題に対して、ますます敏感に反応するようになっています。

では、大学はどのように対応するのでしょうか。

まず、副学長の担当領域が拡大します。産学連携・事業担当副学長が置かれます。地域活動担当副学長も置かれます。そして、新しい部門や新しい部署が、キャンパス内に次々と生まれ始めます。大学には、新しい建物を建てるための十分な空間がない場合が多いため、仮設の施設まで設けられるようになります。

ここでは、何が起こっているのでしょうか。

大学は、自らについて一貫した見方を形成するのではなく、断片化しています。大学は断片化し、さまざまな異なる方向へ進んでいきます。

これは非常に動的な状況です。異なる部門は、ほかの部門が何をしているのかをほとんど知らず、また、あまり関心も持っていません。

大学の学長が、日本のほかの大学の学長たちとの朝食会に出席し、インターネットや人工知能への対応について新しいアイデアを耳にします。そして大学に戻ると、また新しい取り組みを始めます。

すると大学は、さらに別の方向へ進んでいきます。

偶然が支配します。成り行きが支配します。物事は、ただ断片的に生じていきます。

しかし、ここでは、さらに根本的な問題が問われています。

スライド11――複数の関係主体が存在する状況

スライド11 複数の関係主体が存在する状況、日本語版
Slide 11, a situation of multiple constituencies, English original
[スライド11――複数の関係主体が存在する状況]

これまで述べてきたように、大学は単独で存在しているわけではありません。大学は、巨大な力と影響力をもって作用している、これらのメガ・エコシステムに応えなければなりません。

大学は、あらゆる種類の異なる影響やコミュニティに応えています。

大学には、その地域、その地元があります。大都市では、影響力を持つ地方議員、首長、市長、行政関係者が、自分たちの地域にある大学に対して、さまざまな形で地域の利益を促進することを期待しています。

国家や中央政府も、ますます政治性を帯びる環境の中で、大学に対する期待を示しています。

さらに、世界的な視点があります。国際連合があり、ユネスコがあり、その持続可能な開発目標、すなわちSDGsがあります。日本は、これらに特に敏感に対応していると私は考えています。皆さんは、環境や持続可能性の分野で、非常に多くの取り組みを行っています。

大学は、こうしたコミュニティに応えなければなりません。

それらは大学の外部に存在し、異なる方法で応えるよう大学に求めています。

そして、それぞれが異なる言語を話しています。それぞれの言語は、異なる利害、異なるネットワーク、異なる価値、そして世界に対する異なる姿勢から生まれています。

大学の外部には、異なる関係主体が存在しています。そして、それらの間には、緊張関係と解消不能な対立があります。それらは互いに合意しておらず、大学に対して、まったく異なる、しかも相互に矛盾する期待を向けています。

スライド12――混然とした激動

スライド12 混然とした激動、日本語版
Slide 12, messy turbulence, English original
[スライド12――混然とした激動]

これは、世界中の大学にとって、非常に激動的な状況です。

シビック、グローバル、エコロジカル。ここで「エコロジカル」とは、大学が自然の世界に目を向けることを意味します。ただし、それは、大学がほかのすべてのエコシステムと絡み合っていることを踏まえて、自然に目を向けるということです。大学が自然に適切に向き合うためには、自然という問題が、部分的には、経済、文化、学習、知識、政治体制などの問題でもあることを理解しなければなりません。

これは、大学のリーダーやマネジャーにとって大きな課題です。なぜなら、彼らは、これらの異なるコミュニティの声を聞き、その存在を感じ取っているからです。大学全体を通じて、こうした要求を感じ取っています。これらの課題、言語、考え方、期待はすべて、大学自身が理解できる言語へと翻訳されなければなりません。

そして、人文学の教授とテクノロジーの教授では、それらの言語の解釈の仕方はまったく異なるでしょう。

大学そのものが、トニー・ベッチャーが1989年の著書『Academic Tribes and Territories』で用いた表現を借りれば、「部族と領域」の集合体です。

したがって、大学の外部にも差異があり、大学の内部にも差異があります。これは、大学のリーダーやマネジャーにとって、非常に扱いの難しい状況です。

大学外部のそれぞれの領域は、独自の言語、独自のネットワーク、独自の利害、独自の慣行、独自の関心、独自の地平を持っています。

地域の地平は、国家的な経済の地平とはまったく異なります。そして、それはまた、グローバルでエコロジカルな地平とも異なります。

大学は、こうした異なるすべての地平を、同時に行き来しなければなりません。

そのため大学内部では、経済成長に応えること、地域への誇りや地域社会の豊かな発展に配慮すること、大学だけでなく政府や国家そのものの世界的地位を高めること、そして自然環境に対して責任ある保全と管理を行うことが語られるようになります。

これらは、大学が直面する極めて大きな課題です。しかも、それらは大学を異なる方向へ引っ張ります。これらの異なる要求の間には、大きな緊張関係があります。

私たちは、現実に正面から向き合い、率直でなければなりません。

これらすべての期待に、等しく応えることはできません。

なぜでしょうか。それらは、互いに解消不能な対立関係にあるからです。

経済成長の要求に応えるのと同じ仕方で、地域への誇りや個人の十全な発展に応えることはできません。また、そのいずれも、自然環境を責任をもって保全・管理するという大学の役割と、同じ仕方で扱うことはできません。

こうした課題は大学を異なる方向へ引っ張り、その結果、大学の根本的な実践に影響を及ぼします。

  • 研究の使命
  • 教育の使命
  • 第三の使命
  • 社会への働きかけ方

大学は、誰に訴えかけるのでしょうか。

どのような価値を表現するのでしょうか。

どのような言語を話すのでしょうか。

皆さんの中でも、とりわけ大学の上級リーダーやマネジャーは、この問題を強く意識されているでしょう。

地方自治体と話すとき、政府関係者と話すとき、高等教育担当大臣と話すとき、そして世界が直面する重大なエコロジカルな課題を代表する人と話すとき、当然ながら、異なる言葉、異なる表現、異なる価値を用います。

皆さんは、これらの異なる課題すべての間を、同時に行き来しているのです。

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問題は、皆さんが関わっているこれらの異なる言語やネットワークの間に、整合性があるのかどうかです。

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