Research Analysis / Higher Education Policy Analysis
学生成果、就職、所得、費用対効果――米国教育省の2026年改革案が問い直す「大学の質」の意味
はじめに
大学の「質」とは、何によって判断されるべきなのだろうか。
優れた教員がいることか。十分な施設や図書館を備えていることか。体系的なカリキュラムがあり、適切なガバナンスが行われていることか。それとも、学生が実際に学び、卒業し、職業を得て、その後の人生において教育の成果を享受していることなのか。
2026年8月19日、米国教育省(U.S. Department of Education)は、米国の高等教育Accreditation(大学認証・適格認定)制度を大幅に見直すNotice of Proposed Rulemaking(NPRM/規則制定案告示)を公表した。Federal Registerへの正式掲載は翌8月20日で、パブリックコメントの期限は9月21日である。したがって、これは現時点では最終規則ではなく、提案段階の制度改革である。
教育省自身、この改革を米国の「postsecondary quality assurance system(高等教育質保証制度)」を再構想するものと位置づけている。改革案には、認証機関の新規参入や変更を容易にする制度改革、単位移行、学問の自由や知的多様性、認証機関と業界団体との関係など、多くの論点が含まれている。
しかし、高等教育政策という観点から最も注目すべきなのは、その背後にあるさらに大きな変化である。
今回の改革案は、大学の質を、大学がどのような教育条件を備えているかだけではなく、その教育によって学生に実際に何が起きたかによって、より強く評価しようとしている。
そこでは卒業率や資格試験合格率に加え、卒業後の就職、所得、さらには教育に要した総費用との関係までQuality Assurance(質保証)の対象になろうとしている。
これは単なるAccreditation制度の技術的修正ではない。
「大学の質とは何か」というQualityそのものの定義をめぐる転換である。
1.Accreditationとは何を保証する制度なのか
米国のAccreditationは、日本の大学設置認可制度とは異なる。
認証を直接行うのは政府ではなく、原則として民間の非政府認証機関(Accrediting Agencies)である。しかし、その認証は連邦政府による学生援助制度へのアクセスと密接に結びついている。
教育省は、認証機関を年間1,000億ドルを超える連邦学生援助へのアクセスを左右する主要なGatekeeperと表現している。
したがって、Accreditationは単なる大学ランキングや外部評価ではない。
一方では、大学教育が一定の質を備えていることを社会に示すQuality Assuranceの仕組みであり、他方では、大学が連邦学生援助制度に参加する資格を左右する制度でもある。
だからこそ、Accreditorは何を「Quality」として評価するのかという問題が大きな意味を持つ。
2.InputsからStudent Outcomesへ
高等教育のQuality Assuranceは、歴史的には大学が質の高い教育を提供するための条件を備えているかを確認することから発展してきた。
教員、教育課程、施設、図書館、学生支援、財務基盤、ガバナンス、大学のMissionなどが典型的な評価対象である。
これは、いわばInputs(投入)とProcess(過程)を通じてQualityを保証するモデルである。
もちろん、現代のAccreditationがInputsだけを見てきたわけではない。Student AchievementやLearning Outcomes(学習成果)はすでに重要な評価項目となっている。
しかし今回の規則案は、Student Outcomesをさらに明確かつ具体的にQuality Assuranceの中心へ押し出そうとしている。
提案されている規則では、AccreditorがStudent Achievementを大学全体だけでなくProgram level(教育プログラム単位)でも評価することを想定し、州の免許・資格試験、修了・卒業、卒業後の就職、進学、標準化されたAssessmentなどを評価項目として列挙している。
ここにある基本的な発想は明確である。
従来の問いが、「大学は良い教育を提供できる仕組みを持っているか」だったとすれば、新しい問いは、「その教育を受けた学生に、実際にどのような結果が生じたか」である。
Qualityの焦点がInstitutional Capacity(大学の提供能力)からStudent Achievement(学生の達成)へ移動しているのである。
3.就職と所得がQuality Assuranceに入ってくる
今回の改革案を特徴づけるのは、Student Outcomesの範囲が卒業率やLearning Outcomesだけにとどまらないことである。
Federal Registerに掲載された規則案は、評価対象としてeducational and economic returns(教育的・経済的リターン)を明記している。
しかも、そのリターンをProgramのcredential level(資格・学位レベル)、期間、職業的文脈に応じて、total cost of attendance(総就学費用)との関係で評価するとしている。
所得については、既存の連邦データに加え、Unemployment Insurance wage recordsなどの信頼できる賃金データを使用することも想定されている。
ここでQuality Assuranceは重要な一線を越える。
大学内部における「教育の質」だけでなく、教育を受けた後、その教育が学生にどれだけの価値をもたらしたのかが制度的評価の対象となるからである。
例えば、高額な費用を必要とするProgramについて、卒業率が低く、卒業後の就職成果も弱く、所得も低い状態が続いているとする。
そのProgramが教員資格、施設、カリキュラムなど従来型のQuality Standardsを満たしているだけで、「高品質な教育を提供している」と評価してよいのか。
今回の改革案は、この問いをAccreditationが避けるべきではないという方向を示している。
4.Educational QualityからEducational Valueへ
ここには、より根本的な概念変化がある。
Educational Quality(教育の質)とEducational Value(教育がもたらす価値)が接近し始めている。
従来、両者は必ずしも同じものではなかった。
哲学、文学、歴史、美術、基礎科学などの教育について、卒業後所得が必ずしも高くないからといって、それだけで教育の質が低いと判断することはできない。
大学教育には、所得では十分に捉えられない価値がある。
Critical Thinking(批判的思考)、知的成長、市民性、倫理的判断、文化的理解、創造性、そして生涯にわたって学び続ける能力などである。
今回の米国教育省案も、所得だけをQualityと定義しているわけではない。卒業、資格、進学、就職その他の複数の学生成果を評価する構造になっている。
したがって、「米国は大学の質を所得だけで測ろうとしている」と表現するのは正確ではない。
しかし、Graduate Earnings(卒業後所得)とCost of Attendance(就学費用)との関係をAccreditationの正式な評価体系に組み込もうとしている点は重要である。
これは、「良い教育だったか」という問いに、「学生が負担した時間と費用に見合う価値があったか」という問いを加えることである。
Quality Assuranceが、次第にValue Assuranceの性格を帯び始める。
5.Quality Assuranceの三段階
この変化を理解するため、ERFではQuality Assuranceの発展を概念的に三段階に整理することができる。
| 段階 | 中心となる問い | 主な評価対象 |
|---|---|---|
| Quality Assurance 1.0 | 良い教育を提供できる条件があるか | 教員、施設、カリキュラム、財務、Governance |
| Quality Assurance 2.0 | 学生は実際に何を学んだか | Learning Outcomes、Student Achievement |
| Quality Assurance 3.0 | 教育は学生にどのような結果と価値を生んだか | Completion、Employment、Earnings、Educational/Economic Return、Cost |
これは米国教育省が用いている公式分類ではなく、今回の制度変化を理解するためのERFによる分析枠組みである。
重要なのは、前の段階が消えるわけではないことである。
教員、Curriculum、施設、Learning Outcomesは引き続き重要である。
その上に、Post-Education Outcomes(教育後の成果)が重ねられようとしている。
今回の改革案を特徴づけているのは、この第三層の制度化である。
6.大学経営にもCost-Benefit Analysisを求める
成果と費用を結びつける思想は、学生の所得だけではない。
規則案には、Accreditorが大学についてCost-Benefit Analysis(費用便益分析)を行う仕組みも盛り込まれている。
提案されている定義では、大学の予算、資源の利用・配分、存在する場合にはBusiness/Strategic Planなどを確認し、大学の活動によって期待される便益が、Financial、Administrative、Opportunity Costsおよび資本支出の将来的影響を正当化するかを検討する。
これはQuality Assuranceの対象をさらに広げる。
問いは、「必要な施設を持っているか」だけではなく、「その施設や活動にそれだけの資源を投入する合理性があるか」にもなる。
つまり、Educational QualityとInstitutional Efficiency(大学経営の効率性)が接近する。
ただし、ここには興味深い逆説もある。
教育省自身の規制負担推計では、約5,001のTitle IV参加高等教育機関についてCost-Benefit Analysisを実施した場合、年間750,150時間の追加負担が発生すると試算している。
規制負担を軽減することを掲げる改革が、新たな相当規模の評価業務を生み出す可能性があるのである。
7.Learner-centred Quality Assuranceというもう一つの側面
今回の改革には、もう一つ注目すべき方向がある。
Institution centredからLearner centredへの移行である。
その典型がTransfer of Credit(単位移行)改革である。
規則案では、教育省長官が認定するAccreditorによって認証された他大学で修得した学部段階の科目について、ContentとLearning Outcomesが自大学の科目とComparableであれば、原則として単位を認定する方向が示されている。
大学は単に大学名やAccreditorの違いだけを理由に拒否することはできず、拒否する場合にはAcademic StandardsやCurricular Requirementsに基づく理由を書面で示し、学生にはAppealの機会を提供することが提案されている。
この改革も、大学というInstitutionを中心に考えるのではなく、学生がすでに何を学んだかを中心に考える発想である。
既修得の学習を不必要に繰り返させれば、学生は追加の時間と授業料を負担する。
したがって、Student Mobility、Cost、Completionを重視する今回の改革全体と整合的である。
Quality Assuranceは、大学という組織のQuality Assuranceから、Learner Journey全体のQuality Assuranceへと射程を広げつつあると見ることもできる。
8.Outcomes重視には強い合理性がある
この方向性には、重要な合理性がある。
Quality Assuranceが制度やProcessの確認に偏りすぎれば、「方針が存在する」「委員会が設置されている」「所定の評価手続を行っている」こと自体がQuality Assuranceの目的になりかねない。
しかし学生にとって本当に重要なのは、その先である。
実際に学べたのか。卒業できたのか。その後の人生につながったのか。
特に米国のように大学教育の費用が大きく、学生ローンが重要な社会問題となっている環境では、学生が支払う費用と教育から得られる成果との関係を全く問わないQuality Assuranceもまた不十分である。
Student Outcomesをより重視しようとする問題設定そのものには、十分な説得力がある。
9.しかし「測れるもの」がQualityを支配する危険がある
一方、Outcomes-based Quality Assuranceには本質的な問題もある。
測定できるものと、教育にとって重要なものは同じではない。
Graduation Rateは測定できる。
Employment Rateも測定できる。
Earningsも比較的測定しやすい。
しかし、Critical Thinking、Intellectual Development、Ethical Judgment、Creativity、Citizenship、Cultural Understanding、Capacity for Lifelong Learningといった大学教育の成果を、同じ精度で数値化することは難しい。
制度には、測定可能な指標を重視する傾向がある。
そのため、EmploymentやEarningsをQuality Assuranceへ導入すること自体よりも重要なのは、それらがQuality全体の中でどの程度の比重を持つのかという問題である。
測定しやすい成果が支配的になれば、Quality Assuranceが「測定可能なもののAssurance」に縮小する危険がある。
10.大学教育はHuman Capital Investmentなのか
ここまで見ると、今回の改革案の背後にある大学観も見えてくる。
一つは、大学教育をHuman Capital Investment(人的資本への投資)として見る考え方である。
学生は授業料と時間を投入する。
大学は教育を提供する。
学生はその結果としてDegree、Skills、Employment、EarningsなどのReturnを得る。
このモデルに立てば、費用に比べてReturnが著しく小さいProgramをQuality Assuranceの対象とするのは自然である。
しかし大学はHuman Capital形成だけを目的とするInstitutionではない。
大学には、Knowledge Creation、Academic Inquiry、Culture、Citizenship、地域社会への貢献、民主的社会を支える役割などもある。
したがって、本質的な問題は、Economic Outcomesを見るか、見ないかではない。
それを見ること自体には十分な理由がある。
問題は、大学が生み出すさまざまな価値の中で、Economic Outcomesをどこに位置づけるかである。
11.Quality Assuranceの範囲はさらに拡大する
今回の改革案では、Quality Assuranceの対象はStudent OutcomesやCostだけではない。
Academic Freedom(学問の自由)、Intellectual Diversity(知的多様性)、Research Integrity(研究公正)、Viewpoint Nondiscrimination(見解による差別の禁止)などもAccreditationの中に組み込もうとしている。
教育省は、Intellectual DiversityをEducational Qualityの重要な構成要素として位置づけ、多様な見解への接触がCritical Thinkingを促進すると説明する。一方で、具体的な大学Policyを連邦政府が指示したり、Institutional Autonomyを覆したりすることが意図ではないとも述べている。
しかし、この部分にはStudent Outcomes以上に難しい問題がある。
何をもって「十分な知的多様性」とするのか。誰が判断するのか。
Quality Assuranceの対象を拡大し続ければ、AccreditationがEducational Qualityを確認する制度から、大学のAcademic CultureやGovernanceまで規律する制度へ変わる可能性がある。
この点について、Council for Higher Education Accreditation(CHEA)は、Student Achievementの向上や継続的改善といった改革目的には理解を示しながら、AIM規則案はmodernizationを超えて、連邦政府、認証機関、州、大学の関係を大きく再構成するものであり、過度なFederal Prescriptionを避ける必要があると指摘している。
12.改革の核心は「何をQualityと呼ぶか」
今回の改革を、単にAccreditorを増やす「規制緩和」と理解するだけでは、その本質を捉えることができない。
より重要なのは、Qualityという概念の境界そのものが拡大しようとしていることである。
従来型のQuality Assuranceが、良い大学とは、良い教育を提供するための適切な制度、教員、教育課程、資源を持つ大学であるという考え方を基礎としていたとすれば、今回の改革案では、良い大学・Programとは、学生が学び、修了し、その後の教育や職業につながり、負担した費用との関係でも合理的な価値を生み出す大学・Programであるという考え方が強まっている。
Qualityが、教育を提供する条件から、教育によって生じた結果へ、そしてさらに、その結果が生み出したValueへ広がっているのである。
ERF Analysis
13.ERF Analysis――本当に問われているのは大学の「目的」である
ここまで来ると、議論はQuality Measurementの技術論では終わらない。
大学のQualityを何によって測るのかという問いは、最終的には、大学は何のために存在するのかという問いに行き着く。
大学の目的を主としてEmployment、Professional Skills、Earningsの向上と考えるなら、それらは当然Qualityの中心的Indicatorとなる。
しかし大学の目的に、知的成長、Knowledge Creation、人間形成、市民性、Culture、社会への貢献、さらに地球規模の課題に対する責任まで含めるなら、EmploymentやEarningsだけでは大学のQualityを十分に表現することはできない。
したがって、今回の改革が提起する最も重要な問いは、「Outcomesを測定すべきか」ではない。
Student Outcomesを検証することは、現代のQuality Assuranceには不可欠である。
本当に問われるのは、「大学が生み出す何をOutcomeとして認めるのか」である。
そして、異なるOutcomesをどのように組み合わせて「大学の質」を判断するのかである。
おわりに――Quality AssuranceからValue Assuranceへ
2026年の米国Accreditation改革案には、一つの明確なベクトルを見ることができる。
InputsからOutcomesへ。InstitutionからStudentへ。ProcessからResultsへ。そしてEducational QualityからEducational Valueへ。
この方向性には重要な合理性がある。
大学が適切な制度やProcessを持っていることを確認するだけではなく、その教育が学生に実際に何をもたらしたのかを問うことは、Quality AssuranceをよりStudent-centredなものにする可能性がある。
同時に、それはQualityという概念を難しくする。
Employment、Earnings、Cost、ROIのような測定可能な成果を過度に重視すれば、大学が持つより広い知的、教育的、文化的、市民的使命が評価体系からこぼれ落ちる可能性がある。
したがって、今回の改革について問うべきなのは、単純に「賛成か反対か」ではない。
大学の質を測るために、どのような成果を、どのような重みで評価するのか。
そして、測定することのできない価値を、Quality Assuranceの中にどのように残すのか。
米国で現在進行しているAccreditation改革は、米国特有の制度改革であると同時に、Mass Higher Education、Lifelong Learning、Microcredentials、そしてAIによって教育とAssessmentそのものが変わりつつある時代に、各国が避けて通れない問題を先鋭的な形で提示している。
21世紀の大学のQualityとは何か。
今回の米国改革案が投げかけている最も重要な問いは、そこにある。
主要資料
U.S. Department of Education. U.S. Department of Education Issues Proposed Rule to Overhaul and Improve America’s Higher Education Accreditation System, 19 August 2026. https://www.ed.gov/about/news/press-release/us-department-of-education-issues-proposed-rule-overhaul-and-improve-americas-higher-education-accreditation-system
U.S. Department of Education / Federal Register. Accreditation, Innovation, and Modernization: The Secretary's Recognition of Accrediting Agencies: Institutional Eligibility Under the Higher Education Act of 1965, as Amended, Student Assistance General Provisions, Notice of Proposed Rulemaking, 20 August 2026. https://public-inspection.federalregister.gov/2026-17001.pdf
Council for Higher Education Accreditation. CHEA Statement on Proposed AIM Accreditation Regulations, 19 August 2026. https://www.chea.org/chea-statement-proposed-aim-accreditation-regulations
