AI and Higher Education
Assessment・Curriculum・Teaching Practiceはどこまで変わったか
Publication Version v2.0
Research date: 25 August 2026
Author / Research: Educational Research Foundation (ERF)
Editorial responsibility: Educational Research Foundation (ERF)
Keywords: Generative AI; Higher Education; Assessment; Curriculum; Teaching and Learning; UK Universities; AI Literacy
概要
結論から言えば、英国主要5大学では生成AIへの対応が「利用禁止か許可か」という初期段階を越え、Assessment(学習評価)とCurriculum(教育課程)の再設計へ移り始めている。ただし、その進み方は一様ではない。
公開一次資料で確認できる範囲では、King’s College Londonは、生成AIを教育活動へ組み込むための共通枠組みPAIRを19以上のモジュールで試行し、教育実践を組織的に広げている。University of Manchesterは、2026年9月1日から全ての総括的Assessmentを4区分に分類する全学制度を施行する予定であり、Assessment governanceの制度化が最も明確である。UCLは3区分のAssessment guidanceと多数の共同プロジェクトによって、教員と学生が実装を試すための支援基盤を整えている。University of Edinburghでは、全学的な安全なAI利用環境ELMに加え、生成AIの利用過程そのものを評価対象とする科目が公式Course Catalogueで確認できる。University of Oxfordは全構成員にChatGPT Edu等へのアクセスを提供する一方、Assessmentでは「個別に明示的許可がない限り利用不可」という慎重な原則を維持している。
したがって、単一の「先進大学ランキング」を作ることは適切でない。制度化、教育実践の広がり、科目レベルの深さ、安全なインフラという異なる軸で、各大学の特徴を評価する必要がある。
1. 問題設定
大学が生成AIの方針を公表しただけでは、教育が変わったとは言えない。学生向けガイダンスや安全なツールが整備されても、それが授業設計、学習成果、Assessmentの方法、成績評価の基準に反映されなければ、教育実装は限定的である。
本稿は、次の三つの問いに焦点を当てる。
- 生成AIの利用条件が個々のAssessmentで明示されているか。
- 生成AIを使う学習活動がCurriculumやTeaching Practiceに組み込まれているか。
- AIの使用過程、批判的検証、リフレクションがAssessmentの対象になっているか。
2. 調査方法
対象はUniversity of Oxford、UCL、King’s College London、University of Manchester、University of Edinburghの5大学である。2026年8月25日を調査基準日とし、大学公式方針、公式ガイダンス、Course Catalogue、Assessment資料、公式プロジェクトページを優先して確認した。
実装段階は次のように区別した。
| 段階 | 定義 |
|---|---|
| Policy / Guidance | 利用原則や注意事項が示されている |
| Infrastructure | 大学が安全なAIツールや研修を提供している |
| Pilot | 限定的な試行や共同プロジェクトが行われている |
| Course-level Implementation | 特定の授業で生成AIが学習活動に組み込まれている |
| Assessment / Curriculum Integration | AI利用や批判的検証が学習成果・課題・成績評価に組み込まれている |
| Institution-wide Systematic Implementation | 全学共通の仕組みとして継続的に運用されている |
公開情報がないことは、実践が存在しないことを意味しない。本稿の評価は、公開一次資料で確認できた範囲に限定される。
3. 大学別分析
3.1 King’s College London — 共通教育モデルによる組織的展開
King’s College Londonの特徴は、生成AIを授業へ組み込む際の共通言語としてPAIR Frameworkを提示している点にある。PAIRはProblem、AI、Interaction、Reflectionの4段階からなり、学習課題の設定、AIツールの選択、人間とAIの相互作用、成果と過程への省察を一続きの教育設計として扱う。
大学公式資料によれば、PAIRは2023–24年度に19を超えるモジュールで試行された。これは全学導入を意味しないが、単発の教員実践を越え、複数モジュールに共通する教育設計モデルを組織的に試した証拠である。King’sはAssessment変更、適切な利用範囲、学術的不正への対応についても、部局・programmeレベルのガイダンスを公開している。
公開資料から確認できる強みは、AIツールの提供そのものよりも、問題設定とReflectionを含む教育過程へAIを位置付けていることにある。ただし、19以上のモジュールという試行実績を、全学的なCurriculum統合と解釈してはならない。
3.2 University of Manchester — Assessment governanceの全学制度化
Manchesterでは、AI in Teaching and Learning Policyが2026年4月に承認され、2026年9月1日から施行される予定である。同Policyは、全ての総括的Assessmentを次の4区分のいずれかに分類し、Assessment briefとCanvas上で学生に明示することを求める。
- AI Prohibited
- AI Minimal
- AI Permitted
- AI-Integrated
これは単なる推奨用語集ではなく、全ての総括的Assessmentに分類を付す全学共通ルールである。他方、各Assessmentをどの区分に置くかは、各分野の教員が教育目的と学習成果に即して判断する。大学はAI-Integratedが当初はごく少数になると見込んでおり、既存のLearning Outcomesとの整合を条件としている。
したがって、Manchesterの重要性は「全課題でAIを使わせる」ことではない。AIを禁止、限定、許可、統合する判断を、個々の教員の暗黙的判断から、学生に説明可能なAssessment governanceへ変える点にある。調査基準日現在は施行前であるため、実際の運用結果は2026–27年度に検証する必要がある。
3.3 UCL — 分散型実装を支える制度と共同実験
UCLはAssessmentにおける生成AI利用を三つに分類している。Category 1は利用不可、Category 2は補助的利用、Category 3は生成AIがAssessmentで中心的役割を担う場合である。公式ガイダンスは、各module leaderがAssessmentごとの許容範囲を学生に明示する責任を示している。
さらにUCLは、AssessmentをAI時代に適応させるためのAssessment Menuを含む設計支援を公開している。2023年夏には、全11 Facultyにわたる59件のAI Co-Creator projectsを支援し、学生と教職員が生成AIの機会と課題を共同で探索した。
ここで注意すべきは、59件が恒常的な授業実装数を意味しないことである。これは期間を限定した探索的プロジェクトであり、全学Curriculumへの定着を直接示す証拠ではない。UCLの強みは、単一の全学モデルを一律に適用することよりも、共通のAssessment分類、設計資源、学生参画を組み合わせ、各分野で実験できる基盤を形成している点にある。
3.4 University of Edinburgh — Course Catalogueで確認できる深い科目実装
Edinburghは、大学が管理する生成AIアクセス・イノベーション基盤ELMを提供し、学生と教職員向けに安全で責任ある利用ガイダンスと研修を整備している。これはInfrastructureとして重要だが、それだけではAssessment統合の証拠にはならない。
より注目すべきなのは、公式Course Catalogueで生成AIをAssessmentに組み込む具体例を確認できることである。Artificial Intelligence and Storytellingでは、AIを用いた創作プロジェクトがAssessmentの中心に置かれている。また、2026–27年度のEarly Detection and Prevention of Cancerでは、学生がポスター改善に用いた生成AIの過程記録を提出し、その利用が適切かつ洞察的であったかを評価する部分が成績の20%を占める。
これらは、生成物だけでなく、AIとの協働過程と判断を評価対象にする実践である。ただし、特定科目で確認された深い実装を、大学全体の標準方式とみなすことはできない。Edinburghの公開資料が示すのは、科目レベルでAssessment / Curriculum Integrationに達した明確な事例と、それを支える全学インフラの併存である。
3.5 University of Oxford — 包括的アクセスとAssessment上の慎重原則
Oxfordは、学生と教職員にChatGPT Eduを含む生成AIツールへの包括的アクセスを提供し、安全な利用のための研修と支援を整備している。一方、Assessmentでは、FacultyまたはDepartmentが当該Assessmentについて事前に書面で明示的に許可しない限り、AI利用は認められないという原則を採っている。
この組合せは、AIへのアクセスを制限する方針ではない。学習支援としての探索は促しつつ、成績評価における利用条件は個別AssessmentのLearning Outcomesと整合させる考え方である。Oxford GPT Libraryには、資料検証や批判的評価を促す教育用GPT等も掲載されている。
公開資料に基づく限り、OxfordはInfrastructureと学習支援を先行させながら、Assessmentへの統合については明示的許可を入口とする慎重な統治モデルを採っている。これは「遅れ」と一義的に評価すべきものではなく、Assessmentの信頼性と学問分野ごとの判断を優先する制度選択と理解できる。
4. 比較分析
| 大学 | Assessment governance | 教育実践の特徴 | 公開資料から確認できる実装段階 |
|---|---|---|---|
| King’s | 適切な利用とAssessment変更のガイダンス | PAIRを19超のモジュールで試行 | 複数科目にまたがるPilot / Course-level Implementation |
| Manchester | 2026年9月1日から全総括的Assessmentを4区分 | 分野別判断を全学共通言語で可視化 | Institution-wide policy approved; systematic operation pending |
| UCL | 3区分、module leaderが利用範囲を明示 | 設計資源と59件の期間限定共同プロジェクト | Infrastructure / Pilot、分散型Course-level Implementation |
| Edinburgh | 全学ガイダンスと科目別条件 | AI利用過程を採点する科目事例 | Course-level Assessment / Curriculum Integration |
| Oxford | 明示的許可がないAssessmentでは利用不可 | 全構成員向け安全なAI環境と教育用GPT | Infrastructure先行、Assessment統合は選択的 |
比較から浮かぶのは、生成AI実装には少なくとも二つの異なる方向があることだ。一つはManchesterのように、全学共通のAssessment governanceを先に整える方向である。もう一つはKing’sやEdinburghのように、教育モデルや個別科目で深い実践を形成し、その成果を蓄積する方向である。UCLは分散的な実験を支える基盤を、Oxfordは安全なアクセスと慎重なAssessment統治を重視している。
したがって、「どの大学が最も進んでいるか」という問いは、評価軸なしには答えられない。制度化ではManchester、複数科目への共通教育モデルの展開ではKing’s、科目レベルの深いAssessment統合の可視性ではEdinburghが、それぞれ注目される。ただし、これは公開一次資料に基づく限定的な比較であり、絶対的順位ではない。
5. ERF Analysis
5大学の動向は、生成AI時代のAssessment改革が「不正利用の検出」から「学習過程の設計と説明責任」へ移りつつあることを示している。
重要なのは、AIを使用したかどうかだけではない。学生がなぜAIを使い、出力をどう検証し、何を修正し、最終判断にどのような責任を負ったかを示せるようにすることである。PAIRのReflection、ManchesterのAssessment別分類、Edinburghの利用過程記録は、いずれもこの方向を異なる形で具体化している。
また、安全なAIツールへの全学アクセスは、公平性と情報管理の観点から重要である。しかし、Infrastructureは教育実装の必要条件になり得ても、十分条件ではない。ツール提供をLearning Outcomes、授業活動、Assessment criteriaへ接続する設計がなければ、教育変革の深さは確認できない。
6. 日本の大学への示唆
第一に、全学方針だけでなく、Assessmentごとに生成AIの許容範囲を明示する必要がある。「適切に利用すること」という抽象的表現では、学生にも教員にも判断基準が残らない。
第二に、禁止・許可の二分法を越え、補助的利用、指定された利用、AI利用が学習成果そのものとなる課題を区別すべきである。ManchesterやUCLの分類は、そのための共通言語として参考になる。
第三に、AI生成物だけでなく、prompt、対話記録、検証、修正、ReflectionをAssessmentの対象にする可能性を検討すべきである。ただし、全科目への一律導入ではなく、各分野のLearning OutcomesとAssessment cultureに応じて設計する必要がある。
第四に、教員個人に設計責任を委ねるだけでは持続しない。安全な利用環境、Faculty Development、学生向けAI literacy、Assessment design支援、good practiceの共有を一体として整える必要がある。
7. 結論
英国主要5大学では、生成AIへの対応がPolicyから教育実装へ進み始めている。しかし、全学制度、複数科目の共通モデル、個別科目の深い統合、安全なインフラは、それぞれ異なる実装段階である。
次の焦点は、方針の有無ではない。2026–27年度以降、共通分類が実際のAssessment briefにどう反映されるか、AI利用過程の評価が学生の学習を改善するか、深い科目実践が他分野へ持続的に広がるかである。ERFは、公開方針だけでなく、Assessment、Curriculum、Teaching Practiceの具体的変化を継続して検証する必要がある。
主要資料
- King’s College London, PAIR framework guidance
- King’s College London, Meso-level guidance
- University of Manchester, AI in Teaching and Learning Policy
- University of Manchester, AI in Teaching and Learning Policy approved
- UCL, Three categories of GenAI use in assessment
- UCL, Designing assessments for an AI-enabled world
- UCL, AI Co-Creators projects
- University of Edinburgh, ELM
- University of Edinburgh, Artificial Intelligence and Storytelling
- University of Edinburgh, Early Detection and Prevention of Cancer
- University of Oxford, Guidance on safe and responsible use of GenAI
- University of Oxford, Generative AI tools
- University of Oxford, Oxford GPT Library
