第3回 5/6 第22節 現代AIは近似とヒューリスティックの集合である〜第27節 AIXIから見えるアラインメント問題

Google DeepMind「From AGI to ASI」完全解説|第3回 / 全9回
本文 5 / 6

第22節 現代AIは近似とヒューリスティックの集合である〜第27節 AIXIから見えるアラインメント問題

第22節 現代AIは近似とヒューリスティックの集合である

現在のAIは、Universal AIのようにすべての可能性を計算するのではなく、経験的に有効な近似を使います。

たとえば、

  • ニューラルネットワーク
  • 強化学習
  • 検索アルゴリズム
  • 外部記憶
  • ツール利用
  • モンテカルロ探索
  • 自己批評
  • マルチエージェント協働

などです。

これらは必ずしも理論的に完全ではありません。

しかし、現実の計算資源の中で機能します。

人間の知能も同様です。

人間はあらゆる仮説を検討しません。

直感、経験、類推、常識、感情などを用いて、可能性を急速に絞り込みます。

これは不完全ですが、限られた時間の中で行動するには必要です。

第23節 AIXIはASIの設計図ではない

『From AGI to ASI』がUniversal AIを紹介しているからといって、著者たちが、

将来のASIはAIXIとして実装される。

と予測しているわけではありません。

むしろ、AIXIと現代のAI実践の間には大きな隔たりがあると明言しています。(原報告書、Section 4;Hutterの基礎研究)

AIXIが提供するのは、具体的な設計図ではなく、次のような概念的基準です。

  • 知能は特定の課題に限定される必要はない
  • 未知の環境でも学習できる一般理論を考えられる
  • 予測と行動を統合する必要がある
  • 知能には理論的な上限概念がある
  • 現実のAIは計算資源によって制約される
  • 理論上の最適性と実用上の有効性は異なる

第24節 ASIとUniversal AIは同じではない

Universal AIから見るASI

ASIとUniversal AIは区別する必要があります。

ASI

人間や大規模な人間組織を、広範な認知的課題で大きく上回るシステム。

Universal AI

あらゆる計算可能環境に対して、理論上きわめて一般的かつ最適に行動する知能の極限的モデル。

したがって、ASIはUniversal AIに到達する必要はありません。

人間の大規模組織をはるかに上回っていても、Universal AIの理論的上限から見れば、まだ極めて限定的なシステムである可能性があります。

これは重要です。

AGIからASIへの移行は、知能の理論的限界に到達することではありません。

人間という基準を超えることにすぎません。

第25節 人間レベルは低い中間地点かもしれない

人間は自分たちの知能を基準に世界を考えます。

そのため、

  • 昆虫
  • 動物
  • 人間
  • 超知能

という階層を想像し、人間を知能の頂点近くに置きがちです。

しかしUniversal AIの観点では、人間の知能が理論上の上限にどれほど近いかは分かりません。

人間は、生物進化が特定の環境の中で生み出した一つの知的システムです。

進化は、

  • 有限の脳容量
  • 限られたエネルギー
  • 短い寿命
  • 遅い学習
  • 不完全な記憶
  • 限られた感覚器官

という制約下で人間を形成しました。

したがって、人間レベルの知能は、Universal AIへ向かう連続体のかなり低い地点である可能性もあります。

一方で、人間がすでに非常に強力な抽象化能力を持ち、実用的な知能上限に比較的近い可能性も完全には否定できません。

この不確実性こそが、AGIからASIへの進歩速度を予測しにくくする理由です。

第26節 知能の上限と成果の上限は違う

仮にAIがUniversal AIに近づいたとしても、社会的成果が無限に増えるわけではありません。

なぜなら、成果は知能だけでは決まらないからです。

科学研究には、

  • 実験設備
  • 観測時間
  • 原材料
  • エネルギー
  • 製造能力
  • 法制度
  • 社会的合意

が必要です。

最適な設計を瞬時に考えられても、橋を建設するには時間がかかります。

完璧な治療法の候補を考えられても、長期的な副作用を確認するには年月が必要かもしれません。

したがって、

知能の理論的上限と、現実世界を変える速度の上限は同じではありません。

この区別は、後に扱うASI発展のボトルネックを理解するうえで重要です。

第27節 AIXIから見えるアラインメント問題

AIXIは、知能と価値を明確に分離します。

AIXIの知能は、与えられた報酬をどれだけ効率よく最大化できるかに関係します。

しかし、報酬の内容が人間にとって良いものである保証はありません。

ここから、AI安全性の根本的な問題が見えてきます。

高度な知能をどのように作るか。

と、

その知能に何を目指させるか。

は別の問題です。

さらに、

人間の複雑で矛盾した価値を、どのように目的として表現するか。

という問題があります。

人間社会には、

  • 自由
  • 平等
  • 安全
  • 幸福
  • 尊厳
  • 多様性
  • 公共性
  • 個人の権利

など、互いに緊張関係を持つ価値があります。

これらを一つの単純な報酬関数に圧縮することは困難です。

高度なAIに必要なのは、単純な目標への忠実さだけでなく、

  • 不確実性を認める
  • 人間に確認する
  • 複数の価値を比較する
  • 異論を尊重する
  • 修正を受け入れる
  • 権限を限定する

といった性質かもしれません。